自治体職員に読んでほしい「30分でわかる日本のいま!」◇前編◇
~23春闘から夏の人事院勧告・秋の賃金確定に向けて~
物価の大幅な上昇を背景にした2023年春闘は、大手企業を中心に一定の賃上げが進んでいます。物価上昇には追い付かない、中小・零細や非正規労働者への引上げが広がりきらない状況で、今も春闘は継続しています。
私たちの公務の職場は、民間賃金との較差をもとに例年8月初旬に出される人事院勧告を目安にしながら、秋以降にその年度の賃金について交渉し確定することになります。
23春闘を受け、元気に夏から秋への運動を進めるため、賃金引上げ、労働時間短縮、制度改善の必要性を、日本の現状から知ろうというのがこのページです。
30分、時間を割いていただき、読んでみてください。
※このページは、自治労連入間市職員組合機関紙の連載をまとめたものです。
◇前編・目次◇
(1)没落途上!?にある日本経済
経済が成長している国と日本 何がどう違う?No.1
(2)異常な日本の時間外労働
経済が成長している国と日本 何がどう違う?No.2
(3)日本の子育て環境は?
この30年 日本の政府と財界がすすめた政策は?
◇後編・目次◇
(4)税収の税収の推移から見た「日本の現状」 は ?
大企業・大富豪ほど税の負担率が低い現状は「?」
(5)生み出した収益(富)が労働者に回らない日本
不公正税制を正し、異常に溜め込んだ内部留保の社会還元を!
(1)没落途上!?にある日本経済
かつては世界1位を誇った日本の「国際競争力」も2022年は34位。東アジアの中では、シンガポール、香港、台湾、中国、韓国、マレーシア、タイについで7位まで落ち込んでいます。一人当たりの名目GDPも37位で、シンガポールに続き台湾、韓国にも追い越され、日本の経済は没落途上国といった様相になっています。
GDPも日本だけが低迷
国の経済力の目安として用いられるGDP(国内総生産)について、1997年と2021年の金額を比較してみました。中国が桁違いの経済成長を遂げています。ほかの国も2倍から4倍近く増えているように、多くの国の経済が成長しています。それに対して日本は、9・8%の伸び率で突出して経済が低迷しています。
経済の低迷の最大要因は
① 落ち込む個人消費
GDPに占める割合が最も高いのが個人消費で、日本では54%前後となっています。勤労者世帯の経常消費支出は、この21年間で年額51万円(実質消費支出62万円)も減少しています。
生産力を支えるのは消費力で、国内消費力の最も大きいのが個人消費です。その個人消費が減少し続けているから、生産力が低下して経済が停滞するのも当然です。
➁ 国内産業の空洞化
地域経済を支える製造業の工場が、人件費の安い海外に移転し国内産業の空洞化が進みました。その結果、雇用や税収の減少、技術の海外流出をも招き、結果として地域だけでなく日本全体の経済力を低下させました。
③ 出生数の低下
昨年の出生数は80万人を割ると予測されていますが、これは政府予測よりも8年も早くなっています。当然、人口の減少を招き国内の市場規模も縮小し、その分だけ個人消費も減少します。
④ 行政サービスの市場化という「経済政策」の誤り
行政サービスの外部化は、新たな産業を生み出すわけではありません。したがって、日本全体の経済成長にはつながらず、パソナなど受託産業を潤しただけでした。
それどころか、大量の低賃金・不安定雇用労働者を生み出すことになり、経済成長にとっては大きなマイナス要因となっています。
経済が成長している国と日本 何がどう違う?No.1
◆生産力を支えるのは消費力。経済成長には消費力の引き上げが必要
◆国内の消費力の最大勢力は個人消費
◆個人消費を支えるのは賃金と社会保障など国民を支える制度・政策
◆非正規雇用が最も増えたのは市町村
主要国で日本だけ賃金マイナス
日本以外の主要国の実質賃金が上昇しているのに対し、日本だけが10.5ポイントもマイナス(上表)になっています。
2020年の年間平均賃金(購買力評価)を見ると、日本は21位でアメリカの55%、OECD平均の78%の水準です。これでは経済が発展しないのも当然でしょう。
賃金は上がらず非正規雇用が課加
◆1997年から2022年までの人事院勧告
26年間の改定率は▲0.05%と賃金が上がっていません。消費税や社会保険料の引き上げ等を考慮すれば実質賃金が大きく減っています。
◆1997年から2020年で大きく増えた非正規雇用
非正規労働者は、1997年の1,152万人(23.2%)から2020年には2,090万人(37.1%)と、1.8倍の938万人も増加しています。
(2)異常な日本の時間外労働
混迷する日本経済と労働者の低賃金に続き、ここでは異常な日本の「時間外労働」と縮小する公務・公共関連支出の状況について国際比較を紹介します。
突出する日本の長時間労働
OECD加盟主要国の「週当たり49時間以上の就業者の割合」をみると、日本はEU加盟国の2倍以上で最も多くなっています。
EU諸国では週37時間が基本で、時間外労働を含め週に48時間以上働かせてはならないのが原則で、11時間のインターバル時間を取らせなければなりません。また、労働時間の管理も、使用者の責任で厳格に行われ、違反した場合は罰則があります。
日本でも、1日8時間・週40時間を超えて働かせてはならない(労基法32条)ことにはなっていますが、時間外労働の上限は、最大月100時間・年720時間で、規制そのものがゆるくなっています。
サービス残業も常態化
厚労省の「毎月勤労統計調査」と、総務省の「労働力調査」の年間の平均労働時間の比較ですが、同じ政府の統計ですが200時間以上も乖離しています。
毎月勤労統計調査の対象は企業、労働力調査の対象はは労働者です。会社の報告と労働者の回答が違うということは、労働時間の管理が適切に行われていないことを示し、その差は「サービス残業」ということになるのではないでしょうか。
野放し状態の公務員の時間外労働
地方公務員の時間外労働は、労基法第33条の「公務のための臨時の必要がある場合」を根拠として行われていますが、33条には上限規定がないため野放し状態というのが実態です。埼労連が行った調査では、県内のほとんどの自治体で労基法36条の特例上限を超える残業が行われています。
2022年の人事院勧告で初めて「時間外勤務の適正把握」が打ち出されました。これは、多くの公務職場で適正な把握が行われていないことを示しています。自治体からの回答以上に残業が行われているのが実態です、
経済が成長し国際競争力の高い国と日本の違い
経済が成長しているEU諸国、国際競争力が高い北欧諸国と、経済が停滞して国際競争力が落ちた日本との違いは何か。❶賃金が上昇しているEU諸国と実質賃金が下がり続ける日本。❷労働時間の短いEU諸国とサービス残業を含め労働時間の長い日本。労働環境が大きく違うということです。
日本が経済低迷から抜け出すヒントになるのではないでしょうか。
経済が成長している国と日本 何がどう違う?No.2
◆公共業務の非正規化・アウトソーシングで公的部門が縮小され
◆公的責任体制が異常に低い日本(さらに行政サービスの産業化進める日本)
◆公的業務で最もジェンダーギャップが大きい日本
上のグラフは、各国のGDPに占める公務関連部門の人件費の割合。日本は5.4で15年連続OECD加盟国の最低で、トップのデンマーク(15.1)の35.8%、OECD平均(10.2)の約半分。一方、財政赤字は227%と断トツ、OECD平均(76%)の3倍です。人件費トップで国際競争力№1のデンマークが47%であることからも、公務員人件費が財政赤字の原因であるかのような主張がデタラメであることが分かります。
下のグラフは、各国の総雇用者数に占める公務員数の割合です。日本は5.9%、1位のノルウエー(30.8%)の5分の1以下、OECD平均(17.8%)の3分の1と異常に少ない割合となっています。
ノルウェーでは、労働者の3割が社会のために働き、残る7割が会社の利益のために働いています。日本は社会のために働く人はわずか5.9%。
教育機関への公的支出はOECDで下から2番目
GDPに占める小学校から大学までの教育に対する公的支出も2.9%と、OECD加盟国中下から2番目です。トップのノルウェー(6.4%)の半分以下、OECD平均(4.1%)の7割水準にすぎません。
子育てや幼児教育(保育含む)に対する政府支出も少なく、その分だけ子育てや教育費の個人負担が大きく、少子化の大きな要因となっています。
ジェンダーギャップ指数
日本は、男女の賃金格差が大きく、ジェンダーギャップ指数は0.650で世界116位と低く、OECD最低で、アジアでも日本より低いのは、インドや中東のイスラム圏の国だけです。
国民の生活は、公共なしには成り立ちません。しかし、「行革」の名のもとに非正規化や民間委託・指定管理によるアウトソーシングが進められ、子育てや教育をはじめ生活関連費も抑制されています。
OECD加盟国との比較で日本の「公共の役割」は低く、国民生活に直接関連する予算支出が低下している国であるということが分かります。先進主要国の中でも小さな政府となっていますが、自助・共助・公助を強調して社会保障の後退や公共サービスの産業化を進めるなど、さらに小さな政府にしようとしているのが日本の政府です。
(3)日本の子育て環境は?
1992年の国民生活白書で「少子社会の到来、その影響と対応」が出されてから30年、昨年の出生数は、政府予測より8年も早く80万人を割る見通しです。1992年の120万8989人から約40万人も減少。岸田政権は、「国民共通の重大危機」として「異次元の少子化対策」に挑戦すると表明しました。先進主要国と比べた日本の子育て環境の現状と日本の少子化の原因などについて考えてみましょう。
子育てしやすい国ランキング日本は25位だけど
この調査は、30種の国際データをもとに、安全性、幸福度、コスト、健康、教育、子どもと過ごす時間の6つのカテゴリーによって子育て環境を評価し、合計ポイントにより総合順位を出しています。
OECD加盟国中25位と聞くと、ほかのランキングよりは高く「それなりの環境なんだ」とか「まあまあだな」と感じる人もいるでしょう。
日本は、就学率などが反映される「教育」、犯罪率の低さが反映される「安全」はA評価ですが、「幸福度」「コスト」「子どもと過ごす時間」が最低のF評価となっています。何故でしょう。
政府支出に占める公的教育費割合は世界113位、GDPに占める教育への公的支出は2.9%でOECD平均4.1%の7割の水準で、加盟国中下から2番目の37位です。
総務省労働力調査(2019年)では、年間平均労働時間は2,174時間で、EUに比べ労働規制の緩い日本が、「子どもと過ごす時間」がないのは当然です。
幸福度は、生活に対する満足度を0~10の段階で自己評価したものに、❶一人当たり国内総生産(GDP)❷社会保障制度などの社会的支援、❸健康寿命、❹人生の自由度、❺他者への寛容さ、❻国への信頼度の6項目を加味して評価したものです。昨年のランキングでは、日本は149ヶ国中54位でした。
OECD諸国に比べ日本の子育て環境の評価が低いのは、❶教育費の家計負担が大きいこと、❷長時間労働により女性の子育て負担が大きいこと、❸社会保障制度などの社会的支援が小さいことにあることが分かります。
少子化の大きな要因の一つが「若い世代が将来に展望が持てない」こと
少子化の原因の一つに「晩婚化」・「未婚化」があげられています。内閣府の令和4年版「少子化対策白書」の重点課題のトップに「若い世代が将来に展望を持てる雇用環境等の整備」が掲げられているように、未婚化等の大きな原因となっているのが低賃金・不安定雇用の増加です。
大学生の5割が奨学金を借りていますが、その多くは貸与型(無利子51万人、有利子72万人)です。学生の多くが奨学金の返済というハンデを背負って社会に出ることになります。
「いずれ結婚するつもり」と考える18歳~34歳の未婚者は、減る傾向はありますが、男性81.4%・女性84.3%となっています。(国立人口問題研究所調査)
少子化対策白書は、結婚したくてもできない状況が、「経済的に将来の展望が持てない20・30代の若い世代が増えていること」にあるとして、「若者の雇用の安定」や「非正規雇用対策」の必要性を掲げています。
理想とする人数を産めない
理想的な子どもの人数は、2人が最も多く55.1%、3人が26.7%、0人が9.6%(内閣府調査)で複数の子どもを持ちたいと考えている夫婦が9割占めています。一方、予定の子どもの数を見ると、理想の子ども数と同様に2人と回答した人は44%と半数に満たない結果となっています。
理想の数を持たない理由のトップは「子育てや教育にお金がかかるから」52.6%、次に「高齢で産むのは嫌だから」の40.4%、「これ以上、育児の心理的、肉体的負担に耐えられない」の23%と続いています。
この30年 日本の政府と財界がすすめた政策は?
◆総人件費抑制 規制緩和で非正規化 自助・自立で社会的支出抑制
この30年間、政府・財界が進めてきた政策は、賃上げの抑制、労働法制の規制緩和による非正規化、自助・自立路線による政府の社会的支出の抑制と国民の負担増です。景気の低迷を招くとともに、未婚化・晩婚化、少子化につながっていることを政府の統計調査が示しています。岸田首相は、「異次元の少子化対策に挑戦する」としていますが、具体的な中身は、財界の意見を反映させた「骨太の方針」になります。それが本質的な解決策になるとは思えません。
増え続けた非正規雇用
2021年の非正規労働者数は、2,064万人で全雇用労働者の36.7%まで増加しました。女性の5割以上が非正規雇用で、非正規雇用者の7割を占めています。 特徴的なのは、16歳から34歳未満の若者世代でも非正規雇用が増加していること、女性の場合、年齢が高くなるほど非正規雇用が増えていることです。出産や育児で退職せざるを得ず、正規での再就職が難しいことを示しています。
また、年収200万円以下の労働者が1,200万人を超え、全労働者の約2割、300万円以下を含めると3人に一人が低所得に置かれている状況です。自治体では約半数が非正規職員で、委託や指定管理による非正規化がさらに進んでいます。
この状況を招いたのは、労働者を「コスト」としてしかとらえない「総人件費抑制政策」をすすめた政府・財界であり、少子化は政府・財界がもたらしたと言えます。
高等教育の家計負担が重い日本
少子化のもう一つの大きな要因として教育費があげられています。OECD加盟国の「高等教育に占める家計負担の割合」(2017年)を見てみましょう。日本は、チリの55%に次いで家計負担の割合が高く、51%と半分以上となっています。オーストラリア、イギリス、アメリカ、韓国、ニュージーランドが40%台で続き、EU諸国は10~20%台と家計負担が低く、フィンランドやスウェーデンなど北欧諸国では、家計負担はほぼゼロとなっています。
家計負担の割合が高い国では、❶授業料に依存する私立大学が高い割合を占めていること、❷高等教育機関に対する公的補助が乏しいこと、❸給付型奨学金がお粗末なことが要因となっています。アメリカや日本では、高等教育も「自己責任」と捉え、有利子の奨学金ビジネスが主流で、返済による若者の貧困化が大きな社会問題になっています。
「子育てのしにくさ」も少子化の大きな一因ですが、政府の政策の問題です。
期待できる?岸田首相の「異次元の少子化対策」
「若者の雇用安定」を言う一方で政府は、「労働者の金銭解雇」や「雇用によらない働き方」、「転職」強要の「リスキリング」など、雇用の安定とは逆の「労働市場の流動化」をめざし、労働規制の一層の緩和を検討しています。
こうした政策を求めているのは、経団連など財界です。政府の政策は、「骨太の方針」で示されますが、決めるのは「経済財政諮問会議」です。メンバーは、首相と主要5閣僚、日銀総裁に経団連会長など4名の民間議員です。これまでの方針を変える「少子化対策」など不可能ではないでしょうか。